Your friend
あなたといると見るもの全てが色鮮やかに見えるなんて言葉を、
少女漫画で見たことがあるけど。

モノクロームジャケット

私は歌詞も見ず、ホルダーに入れている為全く使わないCDのケースを
整理していた。
小学校のとき初めて買ったものや、遠くに行くため会えなくなるだろうと
中学の卒業式のとき貰ったもの。
見ていると思わず笑みがこぼれた。
別に後悔なんてしていないけれど、少しは懐かしんだりするものなのだ。
まあ、あの雪の日がなければ今居る居心地のいい空間にも
いる事は無いのだけれど。
片付けも中盤まで来たとき、一枚のジャケットが目に入った。
珍しく色が付いていないそれに惹き付けられた、といった方が正しいのかも知れない。
私はそれを手に取ると、ざっと眺めた。
邦楽ではなく、洋楽のようだ。
裏返してみると、バランスの取れた字でサインのような何かが書いてある。
まず分かる事は、日本語ではないという事。
目を凝らしてみると
「・・・仏語?」
まわりがまわりなだけに少しは勉強しておいた方がいいと思い、
この頃勉強していた為分かったのだ。
日本人の名前を書くときはあまり英語と違いが無い為、読むのに支障は無かった。
「さ・・・・・・」
サトウセイ。
私の思考はそこで停止する。
そうだ、固まる必要なんて無いのに。
何で私があの人の物を持っているのか。
自分で禅問答を繰り返しても意味が無い事など、重々承知だった。
では何故?
自分の大切な人の姿が脳裏によぎる。
『お姉さまが貸してくださったの』
そうだ、そして志摩子さんは
『乃梨子も気に入ってくれると思うの』
ああもちろん。
その曲は私がいつも聞いているMDのトラックの、一番上にある。
穏やかな、それでいて体の全身に痺れがくるような、そんな。
私は片付けも放り出してスニーカーに足を突っ込んだ。
手にはそのCDのみ。
その人がそこにいるとは限らないのに、何故か私は走り出していた。
息を切らして乗り込んだバスの中で、めまぐるしく変わる景色を見ながら
私はとても急いていたのだと思う。
バスが止まって降りてもゆっくり歩く事はせずに走っていたのだから。
ここを走る事は滅多に無い。
通るときには制服なのだから、周りに従ってゆっくりと歩かなければならないからだ。
もちろん私は走ってもいいのだけれど、
その事で志摩子さんに迷惑を掛けるのは避けたかった。
それが今走っている。
中学生のときの、遅刻しそうになったあの時の気持ちを思い出して愉快になった。
一応マリア像の前であるわけだから、アーメン、と心の中で唱えてみる。
ますます愉快になって、少し足が軽くなった気がする。
もうすぐそこだ。
角を曲がって
大きな桜の木の下に

「ごきげんよう」

いきなり現れた私に驚く事もせずに、ただそれだけその人は言った。

「ごきげんよう」
私はそれを返すだけで精一杯だった。
この時期に桜なんて咲いているはずが無いのに、桜吹雪が舞ったのだ。
かつて志摩子さんと対峙したときと同じー・・・
「・・・二条、乃梨子さんだったっけ?」
はい、と聖様が手を差し出したため私はそれを握らざるを得なかった。
聖様は、早く離してくれと言いたくなるほどの時間
私の手を握っていた。
私は目を逸らしている。
こんなにも酷似している精神世界に引きずり込まれてはお終いだ。
こんなに似ていては。
聖様は手を離して苦笑した。
「・・・・・・ごめんね、嫌だった?」
「いえ・・・・・・」
離した私の手には汗がじっとりと滲んでいた。
それを気付かれないように、チェックのスカートになすりつける。
「汗?」
死ぬかと思った。
この人と居るのは本当に、心臓に悪い。
「初めてなのに馴れ馴れしくてごめんね。・・・どうですか、私の印象は」
「いや・・・印象と言われましても」
「なんでもいいよ。馬鹿っぽいとかさ」

「似てますね」
言うと、ああ知ってると、その人は嬉しそうに笑った。
「何で笑うんですか」
「いや、志摩子はいい子を選んだんだなあって思ってね」
「皮肉ですか」
「いや?これでも褒めてるんだけれど」
私はいい加減そんな会話にうんざりしてきたので、
用件だけ切り上げて帰ってしまおうと思うようになった。
不思議だ。
さっきまでは永遠にここに留まってもいいさえ思えたのに。
「お返しします」
私が差し出したCDケースを一瞥してから、聖様は口の端を歪めた。
「あげるよ」
「いえ、結構です」
「・・・志摩子よりも生真面目だなあ。いいって」
それ以上押し返そうとしたら失礼かもしれないと思い、
そういうことならば、と私は折れた。
「その曲良かった?」
「はい」
「子守唄みたいな感じだったでしょ」
「・・・そんなに穏やかな感じでは無かったと思います」
感じ方が違うなと聖様が吹き出して、私もそれにつられて笑った。
もう日も落ちる寸前だというのに、何故かとても愉快でずっと笑っていた。
「・・・志摩子と仲良くね」
「随分投げやりな事を言うんですね」
「いや、私いつもこんな感じだから」
「会ったりはしないんですか?」
「志摩子にはあなたがいてくれるからね。今のところ、大丈夫」
「あなたも志摩子さんにとっては大切な人なんですよ」
何故私はこんな事を言えるのだろうか。
この人の方向性が分かったような気になっているからか。
分からない。
唯一つ言える事は、
「似てませんね」
「うん、似てない」
あなたが離れている事で絆を証明しているのだとすれば
私は傍にいる事で証明してみせましょう。
別れの挨拶も無く、そのまま背を向けて別れた後は、
妙に清々しい気分だった。
二人は似ていた。
だからあの人に会った時、世界が桜色で一面満たされた。
あまりにも脆くて美しい世界ゆえに、私が惹かれてしまう鮮やかな色。
帰ってきたら菫子さんも帰ってきていて、早く部屋を片付けろとだけ言った。
もう一度CDのケースを見ると、桜の花びらがついていて
もうモノクロでは無くなっていた。
あとがき
よっす!オラ恥ずい。
前々から会ったアイデアを形にしてみました。
ザ・勝手に出会い妄想。ていうかモノクロームジャケットっていう
単語が頭の中をぐるぐる回ってただけの話なんですけれど。
乃梨子ちゃん好きです。
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