暑い。
まだ五月だというのにこの暑さは何だ。
他の学校ではどうだか分からないが、スカートをバサバサと煽る
ような生徒は一人もいない。
私は一向に構わないのだが何せ今は授業中。
どんな悪評が付いて回るか分かったもんじゃない。
汗で湿った手でノートが湿ってしまうのも困る。
顎から落ちた汗を拭う事もせずに窓の外を見た。
もう桜の花びら一枚も舞ってはいない。青々とした葉が付いているだけ。
一瞬太陽の眩しさに目を細め、視線を教室内に戻した。
私だけじゃない。
みんな参ってしまっている。
この面白い光景をカメラに収めたいと思ったがそれはさすがに駄目だろう。
とん
肩のかすかな衝撃に後ろを見る。
三田さんがノートの切れ端のような物を持っていた。
先生に聞こえないような小声で喋る。
『真美さんから』
『・・・真美さん?』
私が少なからず驚いてそっちのほうを見ると、手を軽く振り返された。
私はその手紙を開いて読んだ。
”暑いね”
・・・いや、暑いけど。
この位のことで貴重な紙資源を無駄にする事も無いのではあるまいか。
私が疑問符を浮かべ続けていると、今度は後ろからで無く天から手紙が
降って来た。
わずらわしくなって投げたに違いない。
続いてその手紙も開く。
”午後の授業抜けない?”
私は吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
私ならともかく真面目な真美さんがこんな事を言い出すなんて 思っても見なかった。
私が目を丸くして見ると、真美さんは顔を真っ赤にして伏せた。
今更後悔しているのだろうか。
・・・でももう遅い。
私は自分のノートの一ページを丸々切り取るとそこに大きく
”抜ける”と書いた。
ぐしゃぐしゃに丸めて真美さんのほうに投げると
少し笑って私の方を見た。
3
先生が自分の所持物をまとめる。
2
クラス委員が号令を掛けて皆立ち上がる。
1
チャイムが鳴って暑い暑い四時限目は終わった。
それから私達は昼食をとることも無く学校を抜け出し、
バスに乗った。
誰の目にも触れないようにする手段なんていくらでもある。
「何処行くの?」
「蔦子さん何処か行きたいところ無いの?」
「うーん」
行きたいところと言ってもあまり思い浮かばない。
どこか涼しいところがいい。涼しいー・・・
「あ」
「何?」
真美さんが私の上げた声に反応した。
そこまで大層な場所じゃないけれど
「噴水のある公園があるのよ、もう少し行った所に」
「噴水?」
私が公園の様子を話すと真美さんは行きたいといってくれた。
そうだ、そこならきっと涼しい。
私は小さい頃にそこの公園に父親と行ったこと、サンドイッチを食べた事、
今でも思い出せることをバスに乗っている間中話し、
真美さんもそれを面白そうに聞いてくれていた。
このときは暑さで頭も少し参っていて、記事にされる事などこれっぽっちも
考えてはいなかった。
もう幻覚のように噴水の水が見え始めた頃、バスは公園前に着いた。
「暑い・・・」
出た途端恐ろしいほどの熱気が体を包む。
手で顔を仰ぎながら公園の中に入った。
「・・・あれ?」
私はとうとう本当に頭がおかしくなったらしい。
あるはずのものが、無い。
「噴水・・・無いね」
真美さんが呟く。
「うん、無い」
噴水なんて物は無かったかのように何も無く、
ただのちいさい水飲み場とベンチがあるだけだった。
それと自動販売機。
私はよろよろとそのベンチに腰掛けた。
真美さんが硬貨を自動販売機の投入口に入れているのをぼんやりと、
ただぼんやりと見ていた。
やがて真美さんがダイエットペプシを二缶持ってやってきた。
頬に冷たい感触。
缶を押し付けられていた。
「気持ちいい・・・」
私が言うと真美さんは微かに笑って奢り、と言った。
私たち以外に誰もいない、公園と呼べるかどうかも怪しいところで話す。
「・・・わたしの頭が朦朧としていて、さっき話した思い出も
ただ単に冷たさを求めるが為の錯覚だったかも知れない」
「・・・どうして?」
「だって、現実に存在していない」
「うーん」
真美さんはペプシを煽って飲み干した。
少し顔をしかめる。
「思い出ってそんなに簡単な物じゃないと思うけど。
だって蔦子さんは噴水が存在して欲しいと思っているんでしょ?
それに」
「それに・・・?」
真美さんは私の頭を指差した。
「その噴水は絶対に消えないでしょ?ここに残ってるんだから。
それと私のここにも、蔦子さんの言う『思い出』の噴水が残るからね」
私は立ち上がり、その噴水跡地を目を凝らして見た。
さっき見ただけでは気付かなかったけど、何かある。
そこに行ってみてみると、白い木製の立て札がしてあった。
『白い噴水は○×公園に移動しました』
私はそれを見て思わず、笑ってしまった。
・・・やられた。
「何かあった?」
「・・・噴水は○×公園に移動しました、って」
「よかったじゃない。武嶋蔦子の思い出は嘘ではなかった!って」
「何それ、三奈子さまの真似?」
「当たり」
人のお姉さまを笑っていいものかと思ったが、
気分に乗せて笑い転げてしまった。
ああおかしい。
だってこの噴水はー・・・・・・。
「喉乾いた」
「さっきコーラ飲まなかった?」
「甘い物飲むと喉が渇くでしょ」
私は小さな水飲み場まで行って蛇口をひねった。
少し消毒臭のする水を飲んで、口を離してからもそのままにしておいた。
「何やってるの?」
「ミニ噴水」
私が言うと真美さんも可笑しそうに笑って指差した。
「下の部分は滝みたいじゃない?」
水の流れている部分は、言う通り小さい滝のようだった。
本当に、冗談じゃない。
私は真美さんの頬に軽くキスして笑った。
「お礼」
父が造った噴水に会いに来ていたなんて。
・・・今度は小さな滝でも作ってもらうように頼んだほうがいい。
じゃないと、
顔を真っ赤にして私を追いかけている真美さんを静めることが出来ない。
あとがき
よっす!オラ恥ずい。
ちまたで流行り?の蔦真美をいつもの君野風味でお届け。
つまらないことこの上ねえ!!!
ていうかはやってなくても流行れ。な勢いで。
四月なのに30度はねえだろうというお話でしたとさ。
新聞部ラブ。
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よっす!オラ恥ずい。
ちまたで流行り?の蔦真美をいつもの君野風味でお届け。
つまらないことこの上ねえ!!!
ていうかはやってなくても流行れ。な勢いで。
四月なのに30度はねえだろうというお話でしたとさ。
新聞部ラブ。
