波。
丸い太陽。
陽射しに目を細めて歩く。
前には愛する姉と妹。
自分は白いワンピースの裾をひるがえしながら
二人を追いかける。
歩くのが早い二人に置いて行かれない様に。
それだけでも十分楽しかったのに、二人は突然居なくなった。
あなたなら大丈夫。
違う。違うよ。
手を伸ばして掴もうとしても届かない。
気付いて見れば、
足に絡みつくのはいばら。天から差すのは光。
お願い、行かないで。
でもそこからは一歩も動けなくなってしまう。
二人がいなくなったあと顔を上げると、目の前に聖母マリア。
ただ無慈悲に自分を見下ろして笑っている。
目からは一筋、血の涙が流れていた。
「それが志摩子さんの見た夢の概容?」
「ええ」
私は傘をさして祐巳さんと歩きながら話をしていた。
内容は今日見た夢の話。
「大丈夫?」
「ありがとう。でも大丈夫」
私は微笑んで返したけれど、『大丈夫?』と言われた時心臓が跳ね上がった。
自分は大丈夫なのか自信が無い。
やはり今の精神状態が夢にも影響しているのだろうか。
「志摩子さん・・・・どこへも行っちゃ嫌だからね」
「何を言っているのよ、嫌ね」
私は微笑み続け、祐巳さんもそうだよね、と引き下がってくれた。
人の痛みに祐巳さんは鋭い。
でもそれは今の私にとって厄介なものでしかなかった。
門のところで手を振り別れ、歩き出す。
薔薇の館の仕事のせいで下校が遅れた為、人の姿は全く無い。
ひたひたと言う濡れたアスファルトを踏む自分の足音と、傘に跳ね返る雨粒
の音だけが、妙に現実味を帯びていた。
それ以外は全てが今日の夢の中のようで、足が浮いているようだった。
寒い。
傘を差している為濡れてもいないし気温もそれほどでは無いのに。
バス停が遥か先に思えて、私はその場でうずくまってしまった。
両手で自分の肩を抱える。
傘は地面に落ちてその役割を果たさなくなった。
ただ冷ややかに雨粒が肩と首筋に落ちては流れていく。
がたがたとわけの分からない恐怖にさいなまれる中で、私には幻聴がした。
聞こえるはずの無い声。
今日この場所にいるはずの無い声。
「志摩子さん・・・・・?」
私はその言葉を受けて振り返った。 尋常ならざる私の姿に驚いて、乃梨子は走ってやってきた。
「どうしたの・・・!?」
「のりこ・・・」
私は泣き崩れそうになったけれど乃梨子が抱き締めてくれたおかげで
そうはならなかった。
温かい。
乃梨子の温かい体温と匂いが私の鼻先にふわりと掛かった。
「とにかくどこか雨宿りできるとこ・・・」
乃梨子は首を回して場所を探した。
視線の先を追うと小さな公園の駐輪場があった。
手を引かれて、ゆっくりと信号を渡る。
目の前で流れてゆく雨粒を見ながら、私は乃梨子にハンカチで拭かれていた。
絶望的な感情が薄れて行く。
一通り拭き終えて、乃梨子が口を開いた。
「・・・志摩子さん、どうしたの」
「なんでもないの」
どうせ信じてもらえるわけも無いけれど、一応の嘘を口にする。
「嘘・・・!だったら何であんなところにいたの」
私は乃梨子の目を真正面から見つめた。
迷いの無い澄んだ強い瞳。
自分から見たくせに目を逸らしてしまう。
「ごめんなさい」
「何で謝るの・・・」
夢を見ただけ。
それだけなのに。 なんでこんなにも現実味を帯びているんだろうか。
二人が自分を捨てる事は無いと分かっているのに心を支配するのは
純粋な恐怖。
「夢を・・・見たから」
「夢?」
頬を涙と違う液体がこぼれて行くのが分かったけれど無視した。
乃梨子はそれに気付いてはっと息を呑んだ。
「お姉さまと・・・・・・乃梨子が何処かへ行ってしまう夢」
次の瞬間、私は強い力で抱き締められていた。
自分の心音と乃梨子の心音が耳元で大きく聞こえる。
それは安定したリズムで一つに解け合う。
「志摩子さん!・・・そんなこと言わないで。言ったよね。卒業するまで
絶対に離れないって」
分かっていたけど、怖かった。
いつか離れていってしまう、それが。
それなのに乃梨子の口からその言葉を聞くだけで、こんなにも安心できるという事に。
「・・・っぐ」
のどの奥から嗚咽が漏れた。
自分も手を乃梨子の背中に回して抱き締めた。
声を上げて泣いていると乃梨子も一緒になって泣いてくれた。
二人で、大声上げて。
一通り泣き終えて、私と乃梨子は顔を見合わせて笑った。
目が真っ赤でウサギみたいだったから。
「私ね・・・嫉妬していたと思うのよ」
「誰に?」
乃梨子がきょとんとして訊いた。
私はふふ、と意地悪く笑って
「仏像」
乃梨子は笑っていた表情をふと真剣にした。
「・・・ごめんね。ほんとに嫌だったならやめるから」
「大丈夫、やめなさいなんて言わないわよ」
「うん、・・・でもね、私のマリア様は志摩子さんだから」
私は乃梨子の言葉に驚いて目を見開いたけれど、そうね、
とだけいって微笑んだ。
頭の脳裏にお姉さまの姿がよぎったけれど、大丈夫。
あの人なら今も猫に自分の傘を差し出してくれているはずだから。
乃梨子と雲間から見える青空を見ながら、そう思った。
あとがき
よっす!オラ恥ずい。
乃梨子さん学校休んでたんだけど志摩子さんが
やぶぅわげ(ヤバ気)レーダーで感知してやってきたわけですな。
ちなみに題名の慟哭は声を上げて泣く事です。
まんまやん。
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よっす!オラ恥ずい。
乃梨子さん学校休んでたんだけど志摩子さんが
やぶぅわげ(ヤバ気)レーダーで感知してやってきたわけですな。
ちなみに題名の慟哭は声を上げて泣く事です。
まんまやん。
